〜 感動の「作り方」 〜

室長 鷲見 弘

 音楽演奏で一番大切なものは感動です。もちろん、ここで言う感動とは、聴衆に良い影響を与える種類の感動でなければなりません。 演奏技術や表現力等も大切ですが、それらは演奏者が聴衆に感動を運ぶ器としての大切さで、音楽そのものにとっての大切さではありません。
 演奏がはじまると聴衆は演奏者に集中します。すなわち聴衆は演奏者に同調します。したがって演奏者が感動していれば聴衆も感動します。音楽演奏の良し悪しは演奏者自身が感動しているかどうかにかかっています。
 演奏者が聴衆に良い影響を与える感動を作り出す簡単な方法があります。 私たちは自分の周りにいる人たちと比較して自分が幸せであるかどうかを判断する傾向があります。比較する相手によって自分が幸にも不幸にもなるということです。
 私たちが自分自身の幸不幸を判断する時にもし、大震災に遭って生きていられるだけでありがたいという様な人々がいることを思い出すことができれば、あるいは、普通の人にとって当たり前のことがとてもありがたいと思える様な境遇の人達が世界には沢山いることを思い出すことができれば、生きていることに、そして当たり前のことに感動することができます。 その様な比較を通して、今の自分の状態を恵まれた有り難い状態と捉えることは、自分自身をとても安心させることです。
 もし音楽の演奏者がその様な感動を持って演奏することが出来れば、その安心感をともなった感動は音に乗り聴衆に伝わって感動を与え、そして人々が忘れかけていた一番大切なことを思い出すエネルギーとなり、正しく生きる勇気を与えます。

(平成26年発表会プログラムより)